会社が喜ぶ「悪質な就業規則」にムッとした話

本屋でよく立ち読みをする。

手に取る本は、ほぼ本のタイトルで興味を持つ。
タイトルと中で書かれている内容がかなり違う本が多いと感じる。

何かの時に聞いた話である。新聞で読んだのかも知れない。
それは定かではない。

ある哲学の本が全然売れない。

そこで誰が考えたのかは知らない。
本のタイトルを変えて再度販売をした。

その後、その本は売れて売れてしようがないほどだったという話を記憶している。
中身は全く同じ本である。

私も本屋でじっくり中身を確認して本を購入し、自宅で再度じっくり読むと、
本のタイトルと中の内容があまりにも違いすぎると
心から腹が立つことがよくある。

話を変えます。

ネットで販売している「就業規則」を購入して喜んで、
知人の会社社長が私のところに持ってきた。

知人で他の会社社長から紹介されて購入したものだと言う。

「立花さんこんな本は本当にいい本だと思うよ」

社長は喜んでその本を購入したようだ。

中身の条文を確認すると
なるほどと「ムッとする」ような条文が目立つ。

本当に会社社長が喜ぶような条文記載が目立つ。

本に書いてあることは、理屈上は通る話ではあるが、
現実にはありえない話である事が多く書いてある。

または主張するにはきわめて困難な話が記載されている。

単なる机上での話でしかすぎない。
それをあたかも実務で使える錯覚をおこさせるように書いている本がある。

しかし、この手の本が売れているのも事実である。

例えば懲戒解雇して、解雇予告手当を支払わず即日に解雇ができる
と言う趣旨の解説がある。

労働基準法第21条(解雇予告の除外)の話ではない。

このような条文が書いてあれば、会社側からみれば喜んで購入するであろう。
法第20条の但し書きの箇所である。

会社は解雇するときは30日前に告知する必要がある。

しかし、「30日などの余裕を持たせられない。即日に解雇したい。」
これはどの会社も通常持つ観念である。

これを “簡単にかなえられる” と書かれた本に出合えば会社経営者は
「そうなのか!」と喜ぶ。

30日前に解雇を予告する必要もない。
解雇予告手当も支払わず、即日に解雇できる。

このようなことが書いてあれば、
会社はいいことを教えてくれる本だと喜ぶであろう。

つまり裏技的な感覚を感じる本と思う。

しかし、これも理屈では可能な話なのである。

また、現実にも、あるにはある話ではある。
刑事の案件であれば違法な行為ではあるが、民事の案件であればあり得る話である。

しかし、実現にするにはかなり困難な道を辿らなければならない。

こんな話を書くような就業規則は極めて悪質な就業規則だと思う。

この事例について述べてみる。

まず行政の立場で述べてみる、

解雇予告手当は使用者が解雇通告後に
労働者が取得する債券としての性格を有するものではない。

即時解雇をするための要件として
法律が定めた特殊な手当としての性格を有すると解されることになる。

すなわち、使用者が解雇手当を支払わず、
即時解雇を固執する場合には解雇は無効である。

逆に使用者が即時解雇を固執しない場合には、
民事的には30日経過後または所定の予告手当を支払った時点で
法第20条に基づく解雇の効力が生ずると解されるので
労働者に予告手当の請求権が生ずると言う意味ではない。

つまり、使用者が解雇予告手当を支払って
はじめて解雇が成立すると言う意味である。

裁判例を紹介する。
日本炭業事件、福岡地裁判決 S29・12・26
予告手当の支払いは解雇の日までに行われれば足りるものと解され、
正規の予告期間中に支払われなかったことを理由に解雇を無効とした。

支払方法は労基法24条に準ずる
支払場所:当該所行所
直接、全額、通貨

行政と相対立する考え方がある。
第20条違反の解雇を有効とする立場の考え方がある。

予告手当は解雇後労働者が取得する使用者に対する債券であると解して、
その支払は解雇と同時になされることは必ずしも必要としないとする。

判例を紹介する。
津田パチンコ店事件、名古屋地裁判決 S30・11・19

この立場にあっても予告手当は
即時解雇の意思表示と同時に履行期に達し支払がなされる必要があり、
これが支払われない場合は予告手当の支払なく解雇したことについて
本条違反として刑事上の処罰の対象となるとともに民事上の履行遅滞に陥ると解する

行政の立場での通達を紹介する。
厚生労働省通達 S23・3・17基発464号

第20条違反の解雇は少なくともその通知後30日の期間を経過するか、
所定の解雇予告手当の支払いが為されるまでは無効と解するべきであり、
予告手当は解雇予告除外事由のない場合に於ける即時解雇の効力発生要件として
その支払を法律が要求した特殊の性質の手当と考えられるので
その支払時期は少なくとも解雇と同時であるべきである。

解雇予告手当をめぐる刑事上、民事上の法律関係を解雇予告の有無、
解雇予告除外事由の存否、除外認定申請の有無との関連で整理する。

解雇予告事由の存否が争う場合
最初に書いた就業規則で記載している事例はここの箇所である。

つまり、
法第20条「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては」
30日前に予告をする必要もなく解雇予告手当も支払う必要はないと言うことになる。

しかし、これも解雇する前に
「労働者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかの認定を
労働基準監督署で受けなければならない。

しかし、認定を受けないで即日解雇した後では
労働基準監督署では該当するかしないかの認定は行わない。申請も受けられない。

認定を受けないで解雇する場合は、刑事罰はあるにしても、
労働者から解雇予告手当を請求されたら
裁判で該当するかしないかの認否を争うことになる。

法第20条の趣旨は解雇する場合は
「少なくとも30日前にその予告をしなければならない」とある。

しかし、但し書きがある。
「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りではない」
と記載されている。

つまり即日解雇で予告手当も支払う必要はない。

これは労働基準監督署の認定を受けた後に解雇しなければならない。
しかし、私法上は即時解雇の要件を具備していれば解雇は有効と判断される。

監督署の除外認定の必要はない。
但し、刑事責任の処罰を受ける危険性はある。

また、私法上、解雇有効の要件を具備していれば、
抗告訴訟の対象にはなるものの勝つことはできる。

法第20条の但し書きをあまり大きく主張すると、
この考え方がまかり通るような錯覚に読者を陥らせることにもなりかねない。

会社経営者はどうしても自分中心に読む傾向が強く、
例外の事項が主文のように勘違いをする場合がある。

「こんな方法があるんだ」という考えを持つ。

理屈上は通る話ではあるが、危険を伴う方法でもある。

このような理屈を最初に結論を述べると、解釈に誤解が生じることは確実である。

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